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2006年01月09日 Archive

::: 新しい事務所。 :::

さっき、帰国したてのアントワーヌくんから電話があった。


彼の会社は、彼のヴァカンス中に引越をすることになっていた。

でも、彼の出発前になっても移転先は決まっておらず、
日本にいる間、彼はこまめにメールチェックしてたんだけど、
ボスからも、同僚からも、何の音沙汰もない。


「出社当日の朝、『ぼくは一体どこへ行けばいいんですか?』って、
 ボスに電話しなくちゃいけないな。」


帰国前に言っていたその冗談が、本当になってしまった。
ううん、冗談じゃなく、本人にとっては、本気の発言だったらしい。

「今朝になっても、会社からメールが入ってないんだよ。
 やっぱり、『どこへ行けばいいですか?』って電話してみるよ。」


ありえない・・・。

移転先が一週間前になっても決まってないこと自体、信じられないのに、
引っ越したあとも、社員に報告のひとつもないなんて。


それなのに彼は、別に焦る様子もなく、人ごとのように、楽しそうに笑っている。
すごい。あなたたち、なんておおらかなの・・・

こんなフランス人が、わたしは大好きだ。
自分では、絶対食らいたくないけれど。


アントワーヌくん、新しい事務所にたどり着けましたかぁー?

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::: きっかけは、風水。 :::

初めてのフランス旅行は、わたしの記憶が正しければ、1997年のこと。

当時、フリーの人形作家としてばりばり働いていたわたしは、
スケジュールを空けて旅行なんて不可能だと思ってたし、
自分で、ポストカードやいろんな雑貨を卸したり営業に回ったりしてたから、
1週間でも家を空けることは致命的だと思ってた。

そんなわたしの背中を押してくれたのは、偶然出会ったひとりのおじさんだった。


その年の春、わたしは弟子のマニョをつれて、
母とその友だちの開いているパッチワークや古ギレ小物のグループ展を見に、
ある喫茶ギャラリーに行った。

扉をあけた瞬間、鋭い視線を感じてそちらを見ると、
カウンター席に、「○○の母」風な女性をふたり両脇に従えて、
ひとりのおじさんが座ってこっちを向いている。
チラ見する、というよりは、
わたしを上から下までなめまわすように見ていらっしゃる。

一瞬たじろいだけど、さっさとその視線をかわして、
奥の席に行き、飲み物を注文。
マニョと、今後のスケジュールなんかを話しはじめた。

するとまた、あのおじさんの視線が。
どうやら彼は、わたしの一挙一投足をじっと観察している様子。

さすがにこれには気分を害して、どう反撃しようか考えていると、
彼の横に座っていたひとりの女史が、わたしのところにつかつか歩いてきた。

「お嬢さん、先生があなたとお話ししてみたいとおっしゃってます。」

先生?先生って、なんの先生よ。
うっさんくせーなぁ。
あのふたりの女性を使って、今夜お伴するオンナを物色してんのか?

すると、カウンターの、その不思議な3人組とは反対端に座って、
ギャラリーのママとおしゃべりをしていた母ちゃんが、
「行ってきなさい、早く早く。」とわたしにせっつく。
おいおい、母ちゃんもグルだったの?

「あの方は、地元では有名な風水師の先生なのよ。」

へえぇー。
でも母ちゃんとはちがって、風水どころか占いにはちっとも興味ないし、
それにあのおじさん、どうみても Dr.コパよりは Dr.中松に風貌が似ている。
(どっちも同じくらいアヤシイけど。)

「見てくださいってこっちから頼むと、ウン十万するんだから。」
というとっても庶民的な母ちゃんの説得に、まんまと同意してしまったわたし。

中村紘子風のファッション、
カーラー外してそのまま来ました風ヘアの女性のあとを、
いぶかしげに思いながらもついていった。


「初めまして、○○です。」

おじさんの差し出した名刺には、いかにもそれらしい名前が、
金色にエンボス加工されている。
彼の弟子と名乗るふたりの女性からも、次々に名刺を受け取る。
そして、そのうちのひとりがわたしに、先生がどれだけすごい方かと説明する。

「先生は、ヒロ・ヤマガタのお母さんの人生も変えた方なんです。」
「はぁ・・・。」

ヒロ・ヤマガタのお母さん、っていう中途半端なセレブ加減が、やっぱり怪しい。
それに、風水で人生変えたっていうけど、人生は自分で作るもんでしょう。

「お嬢さんが入ってきたときから、すごく気になったもんでね。」


この先生とやら、獲物を探しにここに来ているのではなく、
近くにある氷川神社に、毎月1日と15日に参拝に来ているらしい。

で、アートにも造詣の深い彼は、毎回その足で、
このギャラリーに立ち寄るそうなのだ。
こんな風に、通りがかりのひとを視ることは絶対にないのだと繰り返す。

どうやら、わたしはかなり危険なオーラを発していたらしい。


「あなたは、普通の人間ならばさやにしまっている刀を、
 ぎんぎんに研ぎ澄まして、しかも、高く振りかざして歩いている。」

彼は、ジェスチャー付きで説明してくれた。
うーん、分かるようで分からない。殺気に満ちている、ということか?
そして彼は続ける。

「あなたの魂はきれいすぎる。けがれがなさ過ぎる。
 もっと世の中の魑魅魍魎を知らなくてはいけない。」

なにをおっしゃる、ウサギさん?
自分でもイヤになるくらい、汚れすぎているし、腹黒いんだぞ、先生。


彼は、わたしと母が親子であることも、
わたしがアート関係の仕事をしていることももちろん知らなかったんだけど、
仕事のことは見事言い当てられてしまった。

わたしは、ちょっとその気になってきた。
特別に、なんでも相談を聞いてやるというので、
仕事を続けていけるでしょうか? なんてずうずうしく聞いてみた。

職人とちがって、アーティストは消耗品だ。
時代が変わり、観客に飽きられてしまったら、もう命はない。


彼は、事業を大きくしたかったら、
4月X日にニューヨークへ行きなさい、という。
でも、収入もそこそこあったし、
いい加減仕事に忙殺されて疲れ果てていたわたしは、答えた。

「ニューヨークには全然興味がないし、
 事業はこれ以上大きくならなくてもかまわない。」

「じゃあ、量より質を良くしたい、ということだね?」

こじんまりといいものを創りたいのだったら、
5月X日からX日間、パリへ行きなさい、とおじさん。
わたしの横にいた母ちゃんが、すかさず日付を書き留める。

やったー!!
風水狂の母ちゃんはもちろん即OK。
弟子も「仕事のことは、わたしにまかしといてください!」と
京都なまりで言ってくれてる。
公認で娘と仕事を預けて、なんの後ろめたさもなく念願の初海外旅行ができる!

というわけでおじさんの言いつけ通り、5月X日からX日間、
ちゃっかり長年の憧れだったパリに旅立ったのでした。


うーん、そのときは本当にありがたかったけど、
ビジネスとして広げるならニューヨーク、アートとして深めるならパリ、って、
そのまんまじゃん!

それに、そのあと仕事に疲れてこわした体が、まだ治ってないし・・・


でも、このおじさんに出会ってなかったら、いまだに海を渡れずにいたかも。
やっぱ、出会いって大切よね。
ありがとう、おじさん!!


*****

ちなみに、母ちゃんがわたしの男関係について訊ねたとき、
「ボーイフレンドとして遊ぶなら大いに結構だけど、
 結婚はムリだね」って言われた。

・・・くやしいけど、ビンゴ。

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AUTEUR

KiKi Maillet
KiKi Maillet


1970年6月
KiKi 日本に生まれる

1976年12月
Antoine くんフランスに生まれる

1993年2月
長女・Papillonette 出産

1997年5月
KiKi, 初めての海外旅行で Paris へ

2002年
Antoine くんと KiKi 出会う

2005年1月31日
Antoine くんとの記念日

2008年12月
KiKi, Paris 郊外・Courbevoie に移住

2009年1月24日
Châtellerault にてめでたく入籍予定

Bienvenue !!



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